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機械と手絞りの違いについて

機械と手絞りの違いについて
  • 空き缶はサイズ比較用。完成するとこのようになります。製作途中のワケの判らないバッチイ黒い洗面器のような品物も、大変様子の良い、奇麗な光沢をもった(ヘアライン加工までしたからなのであって、しなければ鈍い銀色なのですが)部品に変わります

名称 機械と手絞りの違いについて

ティッシュの箱は比較用

先日、注文があった品物の、途中まで工程が進んだ形状の画像です

左が「手絞り」といって、人間が(私なんですけれど)絞ったもの

右が「絞り機」(名状しがたい「自動機」のような物」)で絞り加工したのです

材質SUS304 板の厚さ2.0t(1.5tや2.0tだと手絞りは容易になります)

ずいぶん前に1回やって、今回は2回目の加工だったのですが、この手の絞りは「自動機」というNC機に、うってつけの加工です。しかし、さすがに「お家のお手伝いさん」が、汎用機のようにどこから引っ張ってこれるようなシロモノではないので(汎用機は殆ど私の私物)

手で絞り始めました。油圧の「絞り機」で絞ることも容易なのですが、注文は高々10個程だったし面倒くさかったので・・・とにかく、絞り始めました。

「上」も見て何も言わなかったのですが、念のためにいきなり10枚の板切りをせず、最初に2個だけ最終工程まで仕上げた頃、「上」が思い出したようで「前回、オマエ絞り機で絞ってたぞ!」

・・・という事で私も思い出し、「絞り機」を使いだしました。(もう・・・バカァ・・・)

画像は両方とも一度熱処理をかけたものなのですが(ステンレスは硬化してくるので途中で何度も熱処理をかけます)同じ条件でも、人力と油圧の力ではこうも違うという(画像が)サンプルです

判りにくいかもしれませんが、最終形状に油圧はずいぶん近づいているのに対して人力はダラッとしています。

人力は油圧に比べて2回ほど余計に熱処理をしないといけません。(2回のうち1回はパワーの差故。余計な2回目は、寸法を出すだけならいらないけれど、ヘラ目を美しく仕上げるためにどうしても必要な熱処理)

余談ですが、史上最大の上陸作戦と言えば「ノルマンディー上陸作戦」のさらに上を行く「沖縄上陸作戦」なのだそうですが、ノルマンディーは負けるつもりなどないドイツ軍による「上陸を断固阻止」作戦だったのに対して沖縄の方は、41年の海戦の時点で負けることが分っていたため

「少しでも長く敵をひきつける」という守備隊だった為、あっさり上陸できたそうな。

ものすごい損害が出ると予想していた先発隊の人たちは、あっさり上陸できたので、島全体の攻略もあっさり行くと考えたそうですが、その後はご存知の通り、アメリカの精鋭たちでも手こずり中には、おかしくなってしまう兵隊も続出したとかなんとか・・・

で、話は戻って、戦後の沖縄というと現地の人に対しての米兵の悪さが有名ですが、上陸作戦に加わったような精鋭たちは当時村民に対しての対応が戦後やってきた兵隊たちとは違っていたとか何とか・・

この業界では、設備がないがゆえに普通なら機械の力で絞るような形状の物を、人力で絞って(無知ゆえに)マウスピースを装着せず何年も経過して、歯がガタガタになってしまった職人や、どんどん煽って絞って(板厚が厚い)目が充血して更に目の毛細血管が切れて「目が真っ赤」になって眼科に行ってセンセに怒られたり・・・とか・・・・そういう職人は絞りに関して「あんまり変な発言」はしない傾向にあるそうです。

 

話は戻って、これは真空装置の一種の部品なので「シルクハット」のような形状のツバの部分の精度(平面度)が、鬼のように出ていないと「ツバの隙間から空気が漏れる」と言われました

当然「へら絞り加工でそこまで厳しい精度を要求されても、そら、空気漏れますがな」と、即答するワケなのですが、

「でも、漏れたら困る」と言われ・・・・「ヘラ工にもできることとできないことがある!」と、思い考えて考えて(いや、それ程考えてない)あの手でやればできるかな?という事で平面度をプラマイ0.1ミリ以内に仕上げて納まました。(測りようがないので控えめな表現ですがもっと精度出てると思います)

例によって「井の中の蛙大海を知らず」・・・・ずっと蛸壺の中にこもっていて広い外の世界のことがわからないので、なんとも言えないのですが、やはりほかの人も、同じような要求があった場合、何かしら工夫して空気が漏れないようにしているのは確実です

旋盤加工ですと(例えば内径)プラマイ0.1ミリ。リミットから外れると油圧作動油がシリンダーから漏れ出す。と言われても、ずいぶん甘いリミット。H公差でプラス0 マイナス0.02ミリまでOKという要求もこなせますが 

ヘラ工の場合、プラス0マイナス0.1ミリなどと要求されたらうなってしまいます

どのくらい難しいかと言いますと、ディスクグラインダーの400番(ペーパーサンダー)で黒皮の平面を0.1の範囲で出せ!という事と同じくらいのレヴェルです

黒皮の面積がハガキサイズとして、普通はまず荒いヤスリで平面を出しつつ黒皮を削り落とし、中目で仕上げ、ダイヤルゲージと定盤を使いながら細目で高いところを削り落とします。そこからさらに、同じ要領で高いところをキサゲで削り落とせば

容易に100分台まで平面は出せていましますが(あとは全体的に液溜まりを意図的に刻む)定盤もダイヤルゲージも荒ヤスリも使わず400番のサンダー(ディスクグラインダー)だけで100分台ならぬ0.1台(10分の1台)でいいから出せと言われても、そんなことができる人はいないのです。これも、へら絞り加工で厳しい精度、要求をこなしてきた歴戦の勇士の方々は、おかしな発言をしません。私もいつか一流になりたいものです・・・

100均の茶筒の本体と蓋。これと同等の精度(はめあい公差)の絞りを手絞りで、コンスタンスに絞れたら、人間業というより神業です(うんと長く絞って削り落とすという手法は無し。スプリングバック部で精度を出す・・・という事で)

 

技術的な余談で、このくらいの「へら絞り加工」では、一般的な「絞り旋盤」ではなく中型の「絞り旋盤」を用います。(ポイントは「こんな大きさ(小さい)のに中型で絞る」ということです)

振りのキャパでは余裕で一般機でも回せますが、悪手になる理由に「機械の剛性」の問題が発生します。ゆえに中型で絞ります

一般機で絞ることも可能ですが(独立したての設備が充分でない小規模工場にありがちな話)華奢な剛性での絞りは(なかなか先端が倒れず金型に付かない)大変です。(あと、振動、びびりの問題も発生します)別の手段で一般機の剛性を吊り上げる設計もありますが、テコ台という「支点」を作り出す鉄の台の剛性が増すと、中型機程、剛性を必要としない一般的な絞り加工時にテコ台の移動が(重いので)非常に困難になり精神的に苦しい作業になります。回避策は、剛性の高いテコ台の他に一般的な軽いテコ台それぞれ一つずつ(合計2台)用意すれば問題はなくなりますが、管理が面倒なのと、置き場所、台の入れ替えが面倒になるので、中型機を1~2台以上所有していればそんなユニークな手法は取りません。独立したての頃は最小限の設備しかないので、この手の手法を取らなければならないこともちょいちょいしばしば・・

そして一番の致命的な欠点は、一般機は1.5kW~2.2kw程度のモーターを装備すればそれで問題ないのですが、剛性を高めた改造機には最低でも3.7kw以上のモーターを装備しなければ、意味がありません。中型機の能力が要求される絞り加工には有効ですが、それ以外の小さな絞り加工(圧力や金型の重量)時にも3.7kw~5.5kwのモーターを回す・・・・この意味は、毎月300ミリのノギスを丁寧に使って、月末に今まで使用していた、その大事な新品同様のノギス様を床に叩きつけて破壊し、バッカンに投げ入れ、新品のノギスを新たに購入する・・・これを毎月することと同じなのです

あと、何かの本で読んだのですが、昔「フォッケウルフ」(だったと思う)という機械があって、操作する人たちの「ここが良い」「ここが不便、こうして欲しい」等々の意見を取り入れて改良され続けたマシンがあったそうですが(違ってるかもしれません)機械絞りの方は

上下左右のジョイスティックで旧型は絞り加工をするのですが、その時にヘラ工はテールストック側を「アタマ」主軸側を「先端」と呼びます。(地方によって呼び方は違います)絞り加工は、とにかく「アタマ」をつけて「先端」を倒して、倒して、限界(先端にしわが寄ってしまう事)直前でアタマを付けて・・・・また先端を可能な限り倒して・・・・これが基本なのですが(荒絞りと言います)序盤に限ってはレバー操作が難解で・・・(板厚が上がれば話は違ってきます)一歩間違えると、とんでもないことになります

絞り職人は、その辺の兼ね合いは十分理解しているのですが、操作系統が自分の体のように行かなくて・・そこで思ったことは、左手でレバー操作。右手側に、油圧(油圧しか知りませんので)の流量の調整ができる「ボリュームコントローラー」を装備してくれれば

今よりもっと、自分の手足のように(ラッパのように奇麗にすぼめて、すぼめて・・)ができるような気がしました。・・・ハイ。  (流量調整バルブは体から遠すぎるのと微動調節はキビシー)

・・・え!?今は、油圧じゃなくてサーボ??

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